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【Quiet Letters 短編】

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月15日
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【Quiet Letters #1】 時の鐘の音

恩賜公園の空気を遠くから押すように響く。 低く、乾いた音が夕方の終わりを知らせる。 時の音を待っていた 茜色の空はゆっくりと形を変え始める。 熱を手放した赤みがかった空色は縁からそっと影を滲ませ石と土に残る昼の匂いを吐ききれずにいる。 幾千の夜露を超えて鳴り続ける鐘の音は見上げるほどに 静 […]

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月15日
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【Quiet Letters #3】いつの間にか

きれいに剥がれる 窓際のテーブルで豆腐パックから割引シールを剥がしている。 爪でシールの端をそっと持ち上げてクロムハーツのライターで裏から温める。 粘着剤が緩んだところでゆっくり引く。 チリッ、という音がしてシールがきれいに剥がれた。 三列目 テーブルの上には飲みかけのぬるいコーラ。 その横に開いた […]

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月15日
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【Quiet Letters #4】朝になっても、夜のまま

逃げ道のない光 カーテンの縁がガムテープで留められている。 左端。右端。下。光の逃げ道がない。 プシュッという音だけが、部屋に残る。 洗濯機の上には湿って固まったタオルが置かれたまま。 声は、輪郭を失う 午前8時15分。坂道を上る。 ビニール袋が指に食い込み白い跡を残す。 黄色い帽子が三つ、四つ、坂 […]

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月17日
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【Quiet Letters #5】『大丈夫。』で、止まった手

深夜二時のコインランドリー 濡れたダッフルコートの水が椅子の下に小さく広がっている。 ドラムが回るたびに赤い光が顔を横切る。 足元には、コンビニ袋冷えたおにぎり潰れたシュークリーム 栄養ドリンクの缶は自販機の下まで転がっている。 蛍光灯が一本、不規則に瞬いている。 洗剤の匂いと湿った布の匂いが混ざり […]

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月17日
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【Quiet Letters #6】何も買わずに出る店

無限遠 自動ドアが開く。 電子音のあと冷房の風が首のタオルに当たる。 作業着のまま店に入り手ぶらで通路を進む。 窓際の棚には、古い一眼レフ。 ファインダーを覗き込み無限遠までピントリングを回す。 窓の外には防波堤に座る制服姿の二つの背中 一瞬だけピントを捉えすぐにぼやける。 放課後の匂い 楽器コーナ […]

  • 2026年2月14日
  • 2026年2月15日
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【Quiet Letters #2】謝らなくていい人

自動ドアの開閉チャイムが、鳴り響く。 レジの液晶に「648円」が表示されている。女性が小銭入れを開く。指先が布の底を撫でる。あわてて、もう一度撫でる。 「あ、すみません…。」「あ、カードで、やっぱりスマホで。」「すみません…。」 背後で、誰かが小さく鼻をすする。 光ったスマホの画面をQRコードにかざ […]

  • 2026年2月13日
  • 2026年2月15日
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【Quiet Letters #7】明日も、同じ音が鳴る

朝の合図 防災無線のメロディが流れる。音の合図で、今日が始まる。 洗面所で、タオルを顔に当てる。並んだ歯ブラシが二本。ヘアートニックが置いてある。 玄関先 玄関を掃く サンダルと並んだ革靴に埃がうっすら積もっている。 指の腹でなぞると、灰色の筋が残る。そっと拭く。 食卓 冷蔵庫の扉には色褪せた写真が […]