朝の合図
防災無線のメロディが流れる。
音の合図で、今日が始まる。
洗面所で、タオルを顔に当てる。
並んだ歯ブラシが二本。
ヘアートニックが置いてある。
玄関先

玄関を掃く
サンダルと並んだ革靴に
埃がうっすら積もっている。
指の腹でなぞると、灰色の筋が残る。
そっと拭く。
食卓

冷蔵庫の扉には
色褪せた写真が貼ってある。
「慰安旅行」と書いてある。
話したこともない、見知らぬ二人だ。
湯沸かし器のアラームが
適温を知らせる。
茶碗を取り出す。
お茶を淹れる。
食卓のいつもの椅子に座る。
向かいの席には、朝刊を置く。
お茶は、置かなかった。
テーブルから、ことッと音がした。
風の通り道

庭先の花が咲いた。
テレビをつける。
アナウンサーの声が流れてくる。
春の園芸特集は、球根の植え方だ。
音量を上げる。
外に出る。
庭先には、クリスマスローズ。
梅雨の頃には、アジサイが咲く。
乾いた鉢植え。
じょうろで水をやる。
「今日は、つぼみが膨らんだね」
さわッと、風が吹く。
夕方の明かり

いつもの椅子に座って、外を眺める。
どれだけ、ここにいたのだろう。
防災無線のメロディが流れる。
太陽の明かりが
姿を薄くし始めている。
玄関先の門灯をつける。
夜の寝息

二つ並んだ布団
隣の枕から、かすかに
ヘアトニックのにおいがする。
目を閉じる。
空が白み始める。
ゆっくりと
防災無線のメロディーが流れる。
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