【Quiet Letters #6】何も買わずに出る店

無限遠

自動ドアが開く。

電子音のあと
冷房の風が首のタオルに当たる。

作業着のまま店に入り
手ぶらで通路を進む。

窓際の棚には、古い一眼レフ。

ファインダーを覗き込み
無限遠までピントリングを回す。


窓の外には
防波堤に座る制服姿の二つの背中

一瞬だけピントを捉え
すぐにぼやける。

放課後の匂い

楽器コーナーの隅
弦の切れたアコースティックギター

ポケットの中で
Am7からD7のコードを押さえる。

リズムを刻むと
頭の中で曲が鳴り始める。

文化祭の放課後
制服から覗く白い袖口
同じコードを押さえる僕。

風でゆれるカーテン越しに
乾いた土の匂いが入ってくる。

ペアのまま

自転車の鍵についた
小さなフェルトのお守り。

ゆがんだ針目をいたわるように
色違いを二人で分け合った。

「ありがとう」と
はにかむ横顔


レジ横のワゴン
安っぽいキーホルダーが
ペアで並んでいる。

片方だけ手に取り
そっと置く。



レジ横を通り抜けると
アスファルトの熱が
足元から上がってくる。


ハンドルに手を置いたまま
空には薄い月が滲んでいた。

海沿いに続く国道への道。
ウインカーを出して車を走らせる。


ラジオから
アコースティックギターの音が
流れてきた。



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