【Quiet Letters #5】『大丈夫。』で、止まった手

深夜二時のコインランドリー

濡れたダッフルコートの水が
椅子の下に小さく広がっている。

ドラムが回るたびに
赤い光が顔を横切る。

足元には、コンビニ袋
冷えたおにぎり
潰れたシュークリーム

栄養ドリンクの缶は
自販機の下まで転がっている。

蛍光灯が一本、不規則に瞬いている。



洗剤の匂いと
湿った布の匂いが
混ざりきらずに残っている。

ドアが開く

折りたたみ傘の水を
トントンと床に落とす音。

自販機の前で
温かいお茶のボタンが押される。

取り出し口に、ガタンと缶が落ちる。

転がった栄養ドリンクを拾う。
持ち主を探す。

大丈夫。で、止まった手

ベンチの端に、レジ袋

中から
しけった紙の角がのぞいている。

「未経験歓迎」
「35歳まで」

にじんだ文字が、 目に入る。

手を伸ばしかけて、止まる。

「ねぇ……。」

顔を上げないまま、声が返る。

「……あ、大丈夫。」

伸ばしかけた手が、空を切る。
ゆっくりと、傍を離れる。

乾燥機の赤い光だけが
規則正しく顔を照らす。

二台の機械の音が
いつの間にか一つになっている。

その音が
一拍
また一拍と続く。

缶コーヒーの熱が
指先から抜けていく。

外の雨は
いつの間にか雪に変わり

しんしんと
夜を照らしている。


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