自動ドアの開閉チャイムが、鳴り響く。
レジの液晶に
「648円」が表示されている。
女性が小銭入れを開く。
指先が布の底を撫でる。
あわてて、もう一度撫でる。
「あ、すみません…。」
「あ、カードで、やっぱりスマホで。」
「すみません…。」
背後で、誰かが小さく鼻をすする。
光ったスマホの画面を
QRコードにかざす。
明るい電子音。
店員が、袋の有無を聞く。
差し出されたレジ袋に
一瞬フリーズする。
「あ、すみません」
袋を受け取る。
中に入っているのは
カップヌードルと、半透明のゴミ袋
その上に斜めに置かれたバナナ一本。
ぶつかっていないのに

自動ドアへ向かう。
前を歩いていたサラリーマンが
ドアの手前で急に立ち止まる。
ポケットから取り出した
スマホが光っている。
女性は
あわてて体をかがめて脇を抜ける。
「すみません…。」
着ているトレンチコートさえも触れていない。
ドアの前に立つ。
センサーが反応しない。
もう一歩踏み込む。
ドアが開く。
「……あ、すみません」
誰もいない道で

街灯の明るさを頼りに、夜道を歩く。
足元に転がっている空き缶に
つま先が触れる。
「あ、すみません。」
カラカラと音を立てて
街灯の光を映したまま、小さく転がる。
縁石の際で、空き缶は動きを止める。
玄関の鍵を開ける。
暗い部屋に向かって
「ただ……。」
言いかけて、口を閉じる。
声にならなかった言葉が
喉の奥でほどける。
ビニール袋をカサリと鳴らし
電気をつける。
部屋の隅で
袋の口からバナナの先端が
斜めに飛び出している。
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